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30代男性「上の前歯だけを矯正して見た目をきれいにしたい」上顎前歯の部分矯正とオールセラミッククラウンで治療した症例

年齢と性別 30代男性
ご相談内容 「上顎前歯のみの矯正で歯並びを改善したい」とご相談いただきました。
カウンセリング・診断結果 診察したところ、上下ともに叢生(乱食い・歯がでこぼこに生えている状態)を認めました。特に上顎前歯の叢生が著しい状態でした。
また、上下前歯は咬合(噛み合わせ)していませんでした。
これにより歯を動かすスペースが存在するため、最小限の治療として、上顎前歯のみの部分矯正が可能と診断しました。
行ったご提案・治療内容 歯科医学的に正しい方法は上下全顎矯正であり、これが最も理に叶った方法でしたが、部分的に対処するのであれば、歯牙を削って被せる方法があることをご説明しました。

ただし今回の患者様の場合、上顎左右1番と2番の位置関係が従来の正しい位置から大きく外れているため、被せ物による歯冠軸の変更の許容限界を超えてしまうことが予想され、審美的に歯をきれいに並べるのは不可能でした。

これを解決するために
①歯の神経を取り除くことで、歯冠軸を大幅に変更する
②歯をきれいに並べるためには、歯を小さく適切な大きさにする、もしくは歯が正しい場所に並ぶためのスペースを確保する
この2つが絶対条件であることをお伝えしました。

全顎矯正であれば、前歯の大きさをそのまま利用可能でしたが、部分矯正ではこのままの大きさで並べることは困難な状態でした。また、神経を取り除き、歯冠軸を大幅に変更したとしても、あまりにも乱食いが著しいため、自浄性を損ない、審美性も理想からかけ離れてしまうことが予想されました。

そこでまず、各歯牙の大きさと、上顎前歯の顎堤(歯が生える土手状に盛り上がった歯肉の部分)の距離を計測し、審美改善に必要な歯の大きさをあらかじめ割り出しました。
その結果、最初に各歯牙を仮歯状態でダウンサイズし、それによって得られた空間を利用して、部分矯正を行うことで、各歯牙を理想的な位置に誘導します。その後、周囲歯肉との調和を図り、最終的に審美性に優れたオールセラミッククラウンで被せることをご提案しました。

治療期間 1年6か月
費用 120万円
術後の経過・現在の様子 術後直後は、歯肉の軽度の発赤を認めました。これは、周囲歯肉とセラミッククラウンの位置関係に起因するものと考えられました。
付着歯肉の状態が、本来とは異なることが要因であり、歯周外科によるさらなる歯肉の改善をご提案しましたが、患者様本人は大変満足しており、このまま経過観察を続けながら、必要に応じて対処することをご希望されました。
6か月後にはほとんど赤みは消退しました。
術後5年を経過した現在も、ブラッシング時の出血、歯槽骨の吸収や歯肉の著しい炎症などは認められず、良好な状態を保っています。

治療のリスク ・歯の神経を取り除き、歯牙を削合し、クラウンを被せることで、将来のリスクとして、天然の歯に比べて虫歯になりやすく、根管内感染による根尖病変(根の先に炎症が起こって膿が溜まること)を生じやすく、破折(割れたり、折れたり、ひび割れたりすること)の可能性が高くなります。

・歯の神経を取り除いてしまうと、長期的に考えれば、歯の生存率は下がります。

・矯正治療のリスクとして、歯の周囲歯肉の退縮(歯ぐきが下がる)など周囲組織がダメージを受けることがあります。

・矯正期間中の管理を怠ると虫歯になりやすくなります。

治療前

治療後

顎堤の大きさが明らかに不足しており、上顎前歯の叢生(乱ぐい)が著しい状態でした。
全顎矯正であれば、上顎の拡大を行うことで前歯の削合は最小限で済むため、本来であれば全顎矯正で対応するべきケースでした。
しかし、医療は医学と異なります。患者様の事情や生活背景を踏まえて、患者様の考え方に寄り添う必要があります。
上顎左右1番はすでに失活歯(根管治療をした歯・神経が生きていない歯)だったため、できるだけ1番のみの削合で対処するのが望ましかったものの、審美的に理想的な歯並びのためには、左右の2番、3番の抜髄(歯の神経を抜くこと)をせざるを得ませんでした。
患者様には、抜髄後のリスクを十分に説明し、術後の管理予防を怠らないことや必ず定期健診を受ける必要があることをお伝えしました。


治療前

前歯の叢生を改善する際、必ず確認しなければならない事項として、顎関節の前方移動時の角度、上顎前歯の傾斜角度に不調和がないか、臼歯部の咬合に問題がないか、下顎前歯との咬合関係の4つです。
多くの人は前歯の並びを正面からの見た目だけで判断しがちですが、審美性だけでなく、機能性が伴っているかを必ず考えなければなりません。機能性を損なうと、歯の動揺、歯周組織の破壊、顎関節の症状、不定愁訴などにつながる恐れがあります。
各個人の持つ許容限界を確認したうえで、最終的な歯牙の形態や配列を決定する必要があります。
歯の形と位置にはきちんと意味があり、見た目だけを追求してしまうと後々のトラブルにつながります。


治療中

歯を歯槽骨の正しい位置に導くためには、歯を動かすためのスペースが必要です。
最初のままではそのスペースが得られない場合、歯を削合して、ダウンサイズした仮歯を装着します。この際、神経に触れてしまうと、その神経を取り除かなければなりません。
神経を取り除き、根管治療を完了した後に、矯正治療を開始します。
移動完了後は、周囲歯肉との調和を図るために、最終形態に近い仮歯を装着し、1か月ほど経過観察を行います。


治療後

最終仮歯を装着した後に、周囲歯肉に問題がないかを確認します。
今回のケースでは歯肉の状態はほとんど問題がなかったため、最終補綴物としてオールセラミッククラウンを装着しました。
セラミックスは周囲歯肉との相性が良いので、より歯肉の安定が図れます。装着後は、矯正後の後戻りの有無、周囲歯肉の炎症の有無、自浄性などを定期的に確認し、問題があれば早急に対応する必要があることをお伝えました。