追想その9
その場しのぎの歯科治療を普及させた結果、過去に歯科治療を施した患者のほとんどは、
人生を通じてやり直しの治療を迫られることになる。
多くの歯を失い、長年の痛みや不快を経験して、
ようやく、自分の置かれている状況を理解する頃には、
口の中が崩壊しているケースは良くある話である。
不思議なもので、そうなってもまだ理解せず、
失われていく歯を当たり前のように受け入れていく人がいる。
昭和の時代にはそういう人たちが大勢いて、そういう人たちのために、
対症療法を主軸とした歯科医療制度が設けられた。さらに、
一部の勉強熱心な歯科医師達は、高度な治療技術を
用いれば、たとえ入れ歯でも快適に過ごせるのだと本気で信じていた時代があった。
歯科治療が患者を救えるのだと過信している時代だった。
21世紀にもなったというのに、いまだに多くの人たちは、歯に関連する健康を軽視している。
歯の神経を取り除くことが、今でも日常茶飯事に行われている事実がある。
歯の痛みを取り除くためには、致し方が無いと羅得ていることがそもそもクレイジーな話にも拘わらず、
いまだに歯科医師の言うことを鵜呑みにして、歯の神経を当たり前のように
取り除いている患者が沢山存在する。
歯科医師も実はわかっている。
神経を取り除くことがいかに危険で、歯に対して悪いことをしているという自覚はある。
だからといって患者に事細かく説明する時間もなければ
話したところでまともに聞いてもらえないという事情もある。
痛くなったら歯科医院に行き、痛みが消えたらまたいつもの生活に戻る
という感覚の患者が沢山いて、
さらに診療報酬は予防より治療に対して支払われるため、
対象療法を中心とした歯科医療制度になるのは、自然の摂理である。
つまり、 全国レベルで考えれば、日本の歯科医療は、
患者の歯を一生守ろうという概念に在るのではなく、
痛みや不快を一時的に取り除き、病気や疾患の進行を遅らせながら。
少しずつ崩壊していく口腔内を、患者の感覚に任せて対応する
という概念に基づいて行われているのである。
そのなりの果てが、入れ歯やブリッジ、しいてはインプラントである。
歯は失われるべきして失われている。
続く