薫へ。

先日嬉しい報告があった。

大学時代の同級生の息子が歯科大学に合格したとのこと。

その同級生とは、まさに青春を共にし、家族のような存在である。

たまには喧嘩もしたが、今でも時々連絡を取り合っている。

 

彼は大学を卒業と同時にすぐさま九州の実家を継ぐために、

歯科医師である母親のもとに勤務したが、彼にとって田舎の診療に従事するには

まだ早く、一年後にはすぐまた東京に戻ってきた。

そこからしばらく大学病院の口腔外科で勤務していたが、母親が病気で

診療が難しくなり、2年も経たずに実家の診療所を継ぐことになった。

 

東京では口腔外科に勤務していたため、一般歯科診療所の診療をほとんど知らず、

それでも毎日押し寄せる大勢の患者を、何とか毎日こなす日々が続いた。

 

ちょうどその頃、僕は一般診療所で経験を積み、おおよその歯科治療は

大体できるようになっていた。夏休みが一週間ほど取れたタイミングで、

彼が四苦八苦していることを知り、一週間彼の実家に寝泊まりしながら、

一日100人近い患者を二人で診療した。

 

朝から晩まで働き続け、昼と夜は診療所の前の中華料理屋で夕食を済ませ、

直ぐに寝るという、まさに合宿のような1週間を過ごした。

 

 

僕がそれまで学んだ知識と経験を彼に伝授し、何とか一般診療のコツを

彼に伝えることができただけでなく、教えることで僕の中の知識も整理整頓され、

勤務医として普段怒られながら(当時の勤め先の院長はマジで怖かった)の診療ではなく

自由に診療させてもらうことで、自分の実力を測ることができたことは、

僕にとっても大変有意義な時間だった。

 

あれから20年以上が経った。

時々連絡を取りながらも、お互い忙しい日々は今も続いているのだが、

最近は父親として息子の進路について悩んでいたようだ。

もともと古風で頑固なところがあり、話し上手でもないので、

おおよその予想はついていたから、僕なりにアドバイスさせてもらった。

 

まあ、僕らも同じように父親に対して複雑な心境を抱く時期があったわけで、

そういう気持ちを今も覚えているからこそ、息子の気持ちがわからないでもない。

とは言え、父親としての立場もあるだろうから、本心とは裏腹に

上手く言葉が出てこないことは、むしろ自然なことだ。

そういうことも含めて、父親と子供は少しずつ理解しあっていくものであり、

時間がかかるものだ。

そして今回の合格は、親子の相互理解を大きく前進させることになるだろう。

それが何より嬉しい。

 

合格の連絡を受けた際、同級生曰く、「息子がお前のブログを読んで奮起したようだ」

とのこと。この長くてめんどくさいブログを読むとは、なかなかじゃないか(笑)

そこで、このブログを通じて彼にメッセージを送ることにした。

親父(同級生)の若い頃のいろいろやらかした話は酒の席の楽しみにするとして、

今年から晴れて歯科大生となる君に言葉を贈るよ。

 

 

 

薫へ。

 

合格おめでとう。

最後に会ったのは君が中学性の頃だったかな?15歳前後だったような。

テニスが上手くて、コートでさんざん走らされた記憶があるよ(笑)

 

歯科医師になることに決めたということは、

これから多くの人たちを助けることを決めたということ。

未来には君にしか助けられない人たちが大勢いるから、

今からその準備をするように。とはいっても少しずつ進んでください。

急ぐ必要はありません。

 

歯科業界は君の祖父や祖母の時代が一番良かった。歯科医師免許さえあれば

誰でも良い生活が保障される時代だった。僕や君のお父さんの時代は

そういう時代ではなくなった。歯科医師免許があっても、激しい競争にさらされて

だれでも安定した収入を得ることが出来なくなったんだよ。

そういう状態を憂う歯科医師が沢山いるんだけど、問題はそこじゃない。

 

一番の問題は、日本人の歯に対する健康意識がいまだに昭和時代のままだということ。

つまり、歯を大切にしようと考える人がとても少ないということなんだ。

 

歯科医師が潤う反面、国民は歯の大切さについてきちんと向き合うことが出来なかったんだよ。

それがこの現状を招いたとも言えるんだよ。

本当に患者に伝えるべきこと、やるべきことを未来のためにできなかったんだ。

 

歯科医師が優遇された時代、歯科医師がやっていたことはひたすら虫歯を削って埋める診療ばかり。

もちろんそれはその時代でとても必要な事だったんだけど、

歯に関連する健康の価値についてしっかり啓蒙するまでには至らなかったんだよね。

形骸的な仕事ばかりが続いて、仕事というよりは「作業」に近いといえるだろう。

そういう時代の流れがあって、いまだに歯科医師の多くはそういう時代感覚のまま、

変化にうまく対応できずに現状を憂いている。活路は沢山あるというのに。

古い体制や古い感覚を捨てきれず、国の体制についてぼやいている輩は少なくないんだよ。

 

歯科医師という職業をいろいろな視点で考えれば、良いとも悪いともいえる。

ただ、苦しい歯科医師がいる一方で、希望にあふれ、

日々を楽しく過ごす歯科医師がいることも事実なんだよね。

そういう歯科医師はきちんと高収入を得ているし、やりたいように仕事をしている。

これからの歯科医師は新しい「価値」を提供することが必要なんだ。

 

君が歯科医師として自由に動ける頃には、歯科医師の二極化はさらに進むだろう。

だから、その時のために今からきちんと準備をして欲しい。

今からきちんと準備をすれば、間違いなく、輝かしい未来が待っていることを約束するよ。

 

卒業後の進路を、大まかでいいから決めておくこと。もちろん、途中で変更しても構わない。

未来から逆算して、今なすべきことをすること。

ただの歯科医師になるか、優れた歯科医師になるか、今決めることが重要なんだ。

その決断が遅れれば遅れるほど、選択肢が減少する。

一流になるためには、一流の道を歩む必要があるからね。

 

それから、絶対に自分を過小評価してはいけないよ。

自分を小さく評価してしまうと、努力を放棄することになるからね。

歯科医師として、高みを目指すつもりで物事を判断してほしい。

失敗を沢山重ねてもいいから、「成長」することに集中してほしい。

 

そこで、大学生活の勉学について大まかなアドバイスをするよ。

 

1年生

まず、一般教養の科目をしっかり勉強すること。特に、英語、物理、生物、化学は

歯科医師になっても必要な科目だから、とことん勉強すること。そして、一番時間が自由に使える時期だから、

もし可能なら、お父さんの仕事を時々見学して、何をしているのかを

自分なりに理解するといいよ。どう感じるかは自由。

君が素直に感じたものが、将来に君の役に立つはずだから。

お父さんは嫌がるかもだけどね(笑)

 

2年生

後期には基礎科目が始まるから、ここからが本番開始。

基礎医学を徹底的に勉強すること。

解剖、組織、生理、生化学は特に科目の要だから、死ぬほど勉強してほしい。

ここをしっかりできるか否かで、君の将来性が大きく変わるだろう。

基礎医学の概念がわからない歯科医師はもうお話にならないので、必ずしっかり勉強すること。

解剖実習も始まるだろうから、予習復習をきちんとすること。

 

3年、4年

歯科特有の基礎科目を学ぶ時期。実習も含めてかなり大変になるだろうけど、

歯科医師としての基盤はここでつくられるから、2年生までに勉強したことをベースに

歯科特有の科目をしっかり勉強してほしい。

特に病理学や薬理学、麻酔学はプロフェッショナルとしての自覚をもって取り組んで欲しい。

将来、医師との連携を図る際には、これらの科目に精通していることが重要だよ。

 

5年生

病院実習が始まり、臨床現場に立つ時期。

医学と医療の違いを身をもって学ぶ時期だから、思考のセンスが試される時だね。

一流と三流の違いに気づけるかどうかが重要。

歯科医師としての原点はここから始まるから、

いろいろな臨床現場をこれまで培ってきたセンスを持って臨んで欲しい。

医療の難しさや人間の弱さ、強さに直面してください。

 

6年生

国家試験対策を最も意識する一年でしょう。

国家試験対策は遅くても3年生から

始めておくこと。君が歯科医師になれる確率は昔と違って低い時代なんだ。

だからできるだけ早く対策する必要がある。

6年生はそれまで勉強してきたことを

一年かけて復習するつもりで過ごしてほしい。

5年生が終わるまでには、臨床問題以外の科目を全て網羅しておくこと。

 

 

今はあらゆる情報が手に入る時代だから、

人より先に勉強することが誰にでもできるし、

学校の授業以外でも学べる場所は沢山ある。

そして、努力を重ねて輝かしい未来を手に入れる奴は必ずいる。

自分より努力している奴がいることを忘れてはいけないよ。

 

 

それから大学生活で最も重要なことを教えるよ。

それはね、

「良き友と先輩を持つこと。

試験対策は絶対に一人でやらないこと。

自分が学んだ知識や情報をできるだけみんなに伝えること。」

 

大学の試験は範囲がとにかく広く、情報戦だから、むやみに勉強しても落ちる可能性が高い。

だから、周りの同級生と一緒に試験対策を行うことで試験のポイントを外さないようにできるんだ。

ちなみに君のお父さんはいつも一人で勉強していたんだけどね(笑)

だから僕がいつも試験対策情報を伝えていたんだよ(笑)

 

伝えたいことは沢山あるけど、いずれまた必要な時期に伝えるね。

そして、勉強ばかりだけでなく、人間として、男として、魅力的になって欲しい。

歯科医師はその人間性が最も重要な仕事だから、たくさん親のスネをかじって、

見聞を広めてください。(笑) 大丈夫。僕がちゃんと言っておくから(^^)/

 

今回の締めくりに僕の一番好きな言葉を贈るよ。

 

「怠ける者は不満を語り、努力するものは希望を語る」

 

会える日を楽しみにしているよ。いつでも気軽に連絡してください。 mouri1971@ybb.ne.jp

 

本当に合格おめでとうございます!! 万歳!!

 

毛利 啓銘より