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50代男性「前歯が欠けた。長持ちする被せ物を入れたい」歯ぎしりの癖や耐久性を考慮し、保険の詰め物が劣化していた隣の歯も合わせてセラミッククラウンを作製して美しく修復した症例

年齢と性別 50代男性
ご相談内容 「前歯が折れたので、耐久性の高いセラミックで被せ物を作り直したい」とご相談をいただきました。
カウンセリング・診断結果 右上の前歯2本(中切歯/1番、側切歯/2番)は、半分以上欠けるなど著しく崩壊しており、虫歯もありました。
幸い、歯の神経に虫歯菌は届いていなかったため、神経の保存は可能でした。

左上の前歯(中切歯/1番)は保険治療の歯科用プラスチックである「CR(コンポジットレジン)」で広範囲に修復されており、一部が欠け、変色も見られました。

歯のすり減り具合から、就寝時の歯ぎしりも頻繁に行っていることが認められました。

行ったご提案・治療内容 患者様のご希望に沿って、右上の前歯2本は、天然歯のような自然な色味や形が再現でき、高い耐久性がある「セラミック」で被せ物(クラウン)を作り直す治療をご提案しました。

左上の前歯1本については、もう一度CRで修復できるものの、審美性や耐久性はセラミックには劣ることをお伝えしたところ、右上同様にセラミックによる治療をご希望されました。

治療期間 2か月
治療回数の目安 5回
費用 450,000円
術後の経過・現在の様子 自然な色味と形の被せ物が入り、周囲の天然歯と違和感のない美しい仕上がりになりました。
噛み合わせも問題なく、しっかり噛めています。

1年経過した現在も経過は順調で、定期検診にご通院いただいています。

治療のリスク このケースにおいて注意すべきポイントは、もともと虫歯リスクの高い患者様で、就寝時の歯ぎしりも頻繁に行っており、ご本人も自覚されていました。
そのため、食事と歯磨きの改善、歯ぎしり対策として就寝時のマウスピースの装着が必須であることをお伝えしました。

また、右上の前歯2本は、歯茎から出ている部分の歯の高さがやや不足していたため、被せ物のヘリの位置を通常より深めに設定しました。
このようなケースは連結する場合もありますが、連結は土台歯に負担がかかるためできるだけ避けるべきと考え、1本での被せ物(単独被覆)でも脱離しないかどうかを仮歯を用いて丁寧に確認する必要があります。

下顎の前歯のすり減り具合から見ても、歯ぎしりの影響を大きく受ける可能性が高いため、歯の傾き(歯冠傾斜軸)を緩やかにし、下顎が前方に動く時の干渉を最小限に設定しました。

審美性ばかりを優先してしまうと機能性が失われ、脱離や破折を招くため、仮歯を用いて必ず事前に検証することが大切であることをお伝えしました。

クリニックより 前歯の治療にはいろいろなケースがあり、必ずしも正解が1つとは限りません。
今回のケースには、基本的に3通りの治療方法がありました。
1)すべてCRで修復する
2)右上1番と2番をセラミッククラウン(あるいはレジン前装冠)とし、左上1番はCR修復
3)右上2番から左上1番までセラミッククラウン(あるいはレジン前装冠)

1)は費用が最低限で済みますが、将来的に再び割れたり欠けたりする「再破折」の可能性が高くなります。
2)は費用が3)に比べて少なくなりますが、左上1番は再破折の可能性があります。
3)は最も費用がかかりますが、再破折の可能性は低く、最も美しい仕上がりになります。

今回の治療対象の歯はすべて神経が残っていたため、神経の保護を重要視するならば3)が最も理想的でした。
短期的に治療を終わらせたい場合は、1)ないし2)を選択するのもやむを得ませんが、長期安定を求めるのであれば間違いなく3)になります。
応急処置を繰り返してきた結果が今回のような歯の崩壊を招いたとも言えるため、今回は根本治療を選択する方が賢明であることを患者様に丁寧にお伝えしました。

単独被覆でも問題ないことを仮歯で確認し、治療後にはマウスピースを就寝時に必ず使用していただくようご指導しました。
現在もセラミックの破折、歯の揺れなどは起こっていませんが、今後も経過観察を行う必要があります。

<歯の治療における切削量について>
崩壊した歯のほとんどはCR(コンポジットレジン)の部分であり、歯の半分以上をCRで修復していたため、材質の劣化と悪い食習慣が強度不足を招き、崩壊したと考えられます。

部分的な歯の修復においては、歯の切削量を最小限にすることで治療後のリスクを小さくできますが、ある一定の範囲を超えてしまうと、修復部の強度不足を招き、被せ物を接着している境界部分の緩みや破断につながります。
それが自分でも気づかないうちにゆっくり起こると、内部に虫歯を作って内側から崩壊したり、さらには歯の神経に達してしまい、神経を取り除くことになりかねません。

つまり、歯をできるだけ削りたくない、なるべく自分の歯を残したいと考えることは大切ですが、歯を削る量ばかりを考えて無理に残すと、将来的にかえって歯を危険な状態にしてしまうのです。

基本的に歯が出ている部分の体積の30%までなら問題ないのですが、それ以上になればなるほど、2次虫歯や神経に炎症が起こる「歯髄炎」のリスクが高くなります。
歯の切削量は大幅に増えるもののしっかり噛める構造のクラウンの方が、中途半端な状態のCR治療より最終的に歯が長持ちするということです。

CRで治療するか?クラウンで治療するか?それぞれに利点と欠点があるので、歯の切削量だけで考えるのはやめましょう。
患者様のお口の状態、歯科医師の技術、将来性などを考慮して、総合的に判断することが大切です。

治療前

治療後