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40代女性「他院で根管治療が上手くいかず、根本的に治療したい」骨補填を伴う上顎前歯インプラントの症例

年齢と性別 40代女性
ご相談内容 「かかりつけの歯科医院で左上2番の根管治療を行ったが、上手くいかなかった。改善の見込みがないので根本的な解決をしたい」とご相談いただきました。
カウンセリング・診断結果 CT撮影にて確認したところ、左上2番の根尖部周囲の骨破壊が口蓋まで波及しており、根尖周囲の著しい骨吸収が認められました。
また、過去に歯根端切除を行っており、歯牙の破折(割れたり、折れたり、ひび割れたりすること)を認めました。
治療によるこれ以上の改善の見込みがないため、抜歯が必要であることをご説明しました。
行ったご提案・治療内容 抜歯後は、両隣在歯を削ってブリッジにて対応するか、インプラント治療で対応するか、それぞれの利点と欠点をご説明しました。
患者様は両隣在歯を削りたくない、歯を連結したくないとご希望され、インプラントをご選択されました。
治療期間 10ヶ月
費用 568,000円(税別)
術後の経過・現在の様子 インプラント及び、周囲歯肉に問題はなく、現在も安定しています。
治療のリスク 上顎前歯部インプラントは、周囲歯肉や骨が臼歯に比べて薄く、インプラントを安全に埋入できる範囲が狭いことが特徴です。

インプラント成功の条件の一つとして、インプラント周囲に十分な骨があることが必須です。不十分な状態で埋入してしまうと、後に歯肉の退縮を招き、インプラントが露出する可能性が高くなります。
また、噛み合わせを正しく設定しないと、インプラントに強すぎる力がかかり、これもまた歯肉退縮を招くことになります。

以上のことから、インプラントを埋入できるだけの骨をしっかり確保することが大切であることをお伝えしました。
さらに、歯肉の退縮を防ぐために、インプラント周囲の歯磨きを怠らないこと、強すぎる力で歯磨きをしないことが大切であることをお伝えしました。

クリニックより インプラントの失敗と成功について
・インプラントが失敗する原因としてまず挙げられるのは、明らかに周囲の骨が不足したままでインプラントを埋入してしまうことです。また、不足しているだけでなく、感染した骨が回復しないままにインプラントを埋入すれば、インプラントが骨に結合せず、脱落の原因となります。

・さらに、埋入位置を誤ると上部構造が適切な形態を得られずに周囲の歯との調和を乱し、機能的にも審美的にも劣る状態となります。

・歯科医師の技術云々も大切ですが、最も重要なのは的確な診断と治療戦略であり、インプラント埋入前に、現状を正しく理解し、将来起こりうるリスクを予測したうえで、各患者様の持つ特徴や傾向を踏まえておくことです。ここにきちんと手間をかけることが大切です。

・インプラント周囲歯肉には3mm以上の十分な幅を持たせることが望ましいと言えます。

・既存の歯肉を移動したり、他の部位の歯肉を移植する方法も視野に入れて、できるだけ十分な骨と歯肉の量を確保することが重要です。ただし、周囲歯肉が1~2mmであっても、安定しているケースもあるので、いずれにせよ治療後の経過観察を怠らないことが重要です。

・最終補綴物としての上部構造においても周囲歯肉との調和を図ることが大切です。さらに、天然歯に比べて咬合(噛み合わせ)時の被圧変位量(沈み込む量)が少ないため、特に臼歯部においてはその差を考慮した咬合設定が必要となります。

治療前

治療後

インプラント治療において最も大切なことは、インプラント埋入前に、埋入条件をしっかりそろえておくことです。十分な骨量、十分な歯肉の厚み、
つまりインプラント周囲組織を十分に獲得しておくことが一番大切です。
それが困難な場合は、できるだけ周囲組織への負担が無いように配慮し、歯肉の退縮もあり得ることを考慮して取り組む必要があります。
特に、骨量は歯肉の量に影響を与えるため、できるだけ確保しておくことが望ましいと言えます。
今回の症例では、長期にわたる骨の感染を認めたため、抜歯後に骨の回復期間をしっかりと設け、インプラント埋入と同時に人工骨を移植しました。これにより、現在もインプラント周囲の組織は健全に保たれており、歯肉退縮も認められません。抜歯前の歯頚線(歯茎から見えている歯の部分と歯茎に埋まっている部分の境目)を比べても変わらず維持できています。

 

治療中

前歯部の唇側の骨幅は臼歯に比べて狭く、インプラントを安全に埋入するための幅が足りないままインプラントを埋入してしまうと、後に歯槽骨の吸収が生じ、さらに歯肉が下がることになります。上顎前歯の歯頚部歯肉の連続した波状線を保つためにも、歯槽骨のボリュームを確保することが必須です。 写真のように、今回のケースでは、感染状態が長期にわたって生じていたために唇側の骨が吸収し、陥没した形態になっており、インプラントを埋入するための骨幅は2㎜以上不足していました。
今回のケースでは治癒期間を有効的に用いるために、インプラント埋入と、人工骨による骨補填を同時に行います。骨幅が大幅に足りない場合は、まず骨補填を行い、しっかりと骨幅を獲得してからインプラントを埋入するのが基本です。まず最初にインプラントを成功させるための環境をしっかり確保すること、これがインプラント治療を成功させるために必要な考え方です。