40代女性「前歯をきれいにしたい」オールセラミックブリッジで前歯の審美改善をした症例
年齢と性別 | 40代女性 |
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ご相談内容 | 「前歯をきれいにしたい」とご相談いただきました。 |
カウンセリング・診断結果 | 他院で抜歯後、ブリッジタイプの仮歯を装着していた患者様でした。最終補綴物(歯の欠損部に歯の働きを補うためにいれる入れ歯や冠)はオールセラミッククラウンをご希望でした。インプラント治療も検討しているが、できるだけ短期間で治療を済ませたいとのことでした。
診断と協議の結果、インプラント治療は可能でしたが、治療期間の制限があることから、オールセラミックブリッジで対応することになりました。 |
行ったご提案・治療内容 | 前歯という領域は、歯の形だけでなく歯肉との調和が重要となります。 一般的なブリッジでの対応も可能ですが、抜歯以前の形状とは異なるゆえ、わずかな隙間が発生し食物が停滞しやすくなるという欠点があります。また、歯がつながって見えてしまうため、ブリッジを装着していることが認知されやすい傾向にあります。 今回は、歯と歯肉の審美的調和の向上、機能性の向上を図り、ブリッジには見えないような工夫を施す治療方法として、欠損部の歯肉を整形し、ブリッジのポンティック(歯のない部分)の基底面をオベイトタイプ(歯肉にポンティックを食い込ませる方法)とすることをご提案しました。 |
治療期間 | 4か月 |
費用 | 60万円 |
術後の経過・現在の様子 | 術後10年以上を経ても、良好な状態を維持されています。歯肉の退縮等は認められていません。 |
治療のリスク | ブリッジには以下のデメリットがあります。 ・食物の停滞や磨き残しの確率が高くなります。 ・普段の歯磨きをおろそかにしてしまうと、歯肉の腫れや退縮が生じやすくなります。 ・咬耗(歯が互いにこすり合うことですり減って摩耗すること)により臼歯の咬合高径が下がると、前歯の咬合(噛み合わせ)が強くなり、ブリッジの破損や脱離につながることがあります。 ・補綴物は天然の歯のようには変化しないため、定期健診を必ず行い、他の歯との調和を定期的に確認する必要があります。 |
クリニックより | 特に今回の患者様は就寝時の歯ぎしりがあるため、マウスピースの使用をおすすめしました。 また、今回は歯肉を整形し、ポンティックをオベイトタイプとしたため、ブリッジの設計に問題がないかどうか、1か月程は仮歯で十分に確認を取ってから最終補綴を装着する必要がありました。 食物の流れは各個人によって異なるため、ポンティックのデザインを仮歯を用いて検証するのが望ましいやり方です。 |
治療前
治療後
従来型のポンティックと比較してオベイトポンティックが優れている点は、基底面が欠損部歯槽堤を圧迫して入り込むことにより欠損部歯槽堤に対し
て生理的な機能圧を与えるため、以下のメリットが得られることです。
・装着感(舌感)が良く,発音にもほとんど影響しない
・より天然歯に近い形態を付与し、審美性に優れる
・プラークの侵入を防ぎ清掃性に優れる
・歯頸線(歯と歯茎の境界線)の連続性と歯間乳頭部(歯と歯の間の部分の歯肉のこと)の保存が図れる
・経年的な歯槽堤粘膜と歯槽骨の廃用萎縮(使われないことで機能が低下すること)を防ぐ(歯肉の安定につながる)
治療前
オベイトポンティックを成功させるためには、ポンティック下の歯肉の形態が最も重要で、十分な骨量が必要です。
骨量が不足すると後に歯肉の退縮が生じる可能性が上がります。また、歯肉の形態が悪いと、歯冠も不自然な形態となり、食物の流れや自浄性が悪くなってしまいます。
これらを防ぐためには、あらかじめ歯肉の形態を外科処置や仮歯を用いて整えて置く必要があり、ここにきちんと時間と労力をかけるべきです。これを怠ると、食片圧入や歯肉の炎症を招くことになり、ブリッジそのものが長期安定できません。
今回のケースは移動範囲が広いため、唇側、口蓋側を同時に行うと術後の歯肉退縮が大きくなる可能性がありました。そのため、侵襲を最小限にするために唇側と口蓋側側の歯肉形成を2回に分けて行うことを選択しました。
歯肉移植も検討しましたが、患者様がご希望されなかっため、歯肉移動のみの対応となりました。
治療後
最終補綴物はオールセラミックとすることで、装着後の歯肉の適切な増殖と変化を見込めます。骨量に不足がないことから、歯肉の適切な変化が期待できるため、最終補綴物の形態は理想的な形態としました。
予想通り、数か月後には唇側の歯肉は増殖し(クリーピング)、口蓋側側の歯肉も歯冠形態に合わせた形状に変化しました。
生体の持つルールを理解し、しかるべき条件を満たし、適切な形態を付与することが、歯科治療の成功の鍵となります。