追想その7
各地域によって生活水準が異なることは周知の事実だ。
人間社会には階層があり、職業と収入、教養の差がそれぞれの階層に影響している。
社会は平等を目指すものの、現実は全く違う。
人間は残念ながら平等ではなく、競争や競合が柱となる社会に生きている。
思想や趣向さえも、生まれ育った環境次第だということを、我々は認知しておいた方がいい。
一件、残酷な表現かもしれないが、事実を正しく観察するためにはそのくらいがちょうどいい。
僕は、自分が理解できないことを覚えるのが苦手だ。
だから、学校の先生がお経のように唱える授業にはさっぱりついていけなかった。
あれを理解できる同級生こそ、異常だと思っていた(笑)
何よりも、使えない知識を押し付けられる教育にも疑問があった。
覚えたところで、役に立たない知識ばかりだ。
しかしながら、それは脳を鍛える訓練であり、
大切なことは覚えることよりも負荷をかけることで、脳の能力を開花させるためのものだと、
今となっては理解できる。
授業の最初にそれを言ってくれれば、義務教育課程の僕の成績はもっと良かっただろう(笑)
高校や大学では、優れた恩師に出会えたおかげで、
物事を理解する形で、知識を会得することができた。
医学や私学を学ぶ上で大切なことは、「理解して覚える」ことだ。
そして、臨床の現場においては、持っている知識から考えるのではなく、
見の前の患者の症状や病態から、学んだ知識を引き出し応用する能力が
必要となる。
つまり、理解していない知識は、引き出されずに、たとえ、引き出しても
応用できないことになる。
優秀な医師、歯科医師は、医学の知識をきちんと理解して覚えている。
能力の差は、ここから生まれる。
医師も歯科医師も、その多くが、国家試験を終えたその日から時間が経てば経つほど、
半分以上の知識を忘却する。医師として、歯科医師としての仕事が始まれば、
選択した各分野ごとに精通していく必要がある。
そうなると、基礎医学の概念はそのままに、学問を掘り下げ、さらなる追求の日々を重ねていく。
学生時代に学んだ知識を半分以上忘れても、専門分野に特化した知識、技術を身に着けていけば、
それはむしろ、自然の流れであり、普通の事である。
ところが、歯科医師のほとんどは、医療保険制度のルールに従って、
決められた枠組みの中で臨床を重ねるのがほとんどである。
大学卒業後しばらくは、初めて見る疾患や病態と、
自らの持つ医学知識を結び付けていく作業こそが、臨床の中心となる。
がしかし、この時期の過ごし方が、歯科医師の未来の能力を大きく左右することになる。
続く