歯科概論    

全ての治療を行う前に、 歯科医が必ず自覚しなければならないことがある。

問題と称するその疾患は、

いつに始まり、これからどこに向かおうとしているのか? ということである。

歯科領域は、医科領域に比べて、

予防管理が行いやすい領域である。

言い換えれば、予防管理なしには、

自己修復できる領域が少ない。

つまり、 歯科医師の治療方針と治療内容によって、

患者の将来は大きく左右されることを意味する。

歯科医師の考え方、治療内容によって、 患者自身は大きく影響を受けてしまう。

残念なことに、 同じ歯科医師国家試験を通過した者達ではあるが、

どこの歯科医院でも同じ治療が受けられるわけではない。

 

歯科医師によって、

その治療の目的と見解の相違が、 現実として少なくないからである。

?だがそこには、 守らなければならない基本概念が存在する。

そしてまた、

ここを忘れて治療を行う歯科医師がいることも事実である。

歯科領域において、 多くの疾患は3つの問題に集約される。

感染、形態、力、である。 これらは常に関与する。

この3つを無視した治療を行えば、 歯科治療は最悪を招く。

感染、形態、力 これらは互いに相関関係にある。

 

感染を起こせば、歯牙や歯周組織は形態を変える。

形態が変われば、 咬合力の圧力分散は不均一あるいは不適切になる。

不適切な咬合力は歯周組織を破壊する。

これによりさらに感染しやすい環境に導かれる。

感染が原因となって力に影響を与えることもあれば、

不適切な形態が感染を促すこともある。

 

過度な力が、感染を促しし、形態に影響する。

 

感染 形態 力は、それぞれがお互いの原因となる。

? (ここで表す形態とは、歯列弓や顎関節、咬合までも含めます。 単一歯牙のことだけではありません)

この負の連鎖は、長い時間をかけて行われる。

ゆっくりとその渦は大きくなっていく。

歯科疾患が、他の領域に比べて軽んじられるのは、

この長い周期が原因とも考えられる。

この長い周期によって、

患者は自分自身の口の中に起きている 問題を、

早期に自覚することができない。

自覚できたとしても、

起きている問題の全てではない。

そのうちの何割かである。

例えば、近接している部分の、

2か所以上の痛みついては、

より痛い方しか感じない。

つまり、患部が近接している場合、

2つ以上問題があっても、

患者は1つととらえる。

さらにほとんどの人は、

痛みと疾患を同等に認識する。

これは大きなまちがいである。

基本概念として、

ほとんどの痛みは疾患を伝えるものであり、

疾患そのものではない。

ここに大きな認識の壁が存在する。

人は信じたいものを信じる傾向にある。

自らの思考を凌駕するほどの現実でない限り、

思い込みだけで判断する人たちはたくさんいる。

その思い込みが、

物事を良いほうに導くのであればいいのだが、

歯科領域においてはやめた方がいいだろう。

成人における歯科疾患の多くは、

病態の進んでいるものが多く、

蓄積された疾患の 複合的な問題は特に深刻である。

複雑に絡んだ病態を、

自分の感覚だけで理解することは あまりにも稚拙である。

痛い所、気になるところだけ 治療してきたこの40年の結果、

今日もやり直しの治療は 後を絶たない。

日本の歯科医療には、基準が存在しない。

各地域や各年代によって、

歯科医も患者も似て非なる歯科治療を

それぞれに行い、受けている。

 

歯科医院を選ぶとき、

何を基準に選択するのか? ほとんどの患者は、

自宅や 職場から近いという理由で 選択しているのが圧倒的である。

近いことはとても良いことであるが、

選択理由がこれだけでは 乏しいといえる。

ここに、負の連鎖の一部が垣間見えるのだ。

形態の問題を放置したままに、クリーニングをしても、

歯磨きの改善をせず、高度な治療を受けても、

必ず、つじつまが合わなくなる日がやってくるだろう。

感染、形態、力 この3つこそ、

歯科医師の扱う問題の主軸となるのだ。

歯科医師も患者も、

この3つに対する共通の概念があれば、

歯科医療は飛躍的に進化するだろう。

口の中の問題を解決するということと、

痛みや気になるところを解決することは、

必ずしも同じではないという事を、

どうか理解していただきいたい。

認識の違いから生まれる問題だけは、

絶対に避けなければならないのだから。