問題の交換
咬合治療で歯を削ることは希だが、
被せてある人工物を削ることは常である。
噛み合わせを悪くしている大きな原因の一つは、
歯科治療そのものである。
その口の中にある金属 その口の中にあるプラスチック その口の中にあるセラミック 一度よく考えてみませんか?
歯科治療には欠点がある。 ? ?
虫歯を取り除き、
何かで埋める。 埋めるとき、
それが金属であろうとプラスチックであろうと
虫歯になる前の歯の形態に戻ることはない。
新しく埋めたものが、 以前の形態に近似することはあっても、
100%元通りになることは、ない。
理由は簡単だ。 歯科医はその形を知らないからだ。
治療する前の健全な歯の形態を、
前もって模型としてとっておくのなら別だが、
現実的に無理がある。 ま、やってみるのもいいかもしれないが(笑)
歯科医が知っていることは、 あくまでも教科書に書いてある歯の形態だ。
(忘れている歯科医も存在する)
残念ながら、 歯の形態について熟慮せずに治療を行うことは、
一般診療において日常茶飯事である。
誰かを責めているのではない。
ここで言いたいことは、 ただただ、それが現実だという事だ。
歯科治療をしても、歯は元の形には戻らない。 ? ?
まずこれを理解してほしい。
例えばあなたが車のドアを破損したとしよう、
修理工場に依頼した後に、数日後に引き取りに行った時、
ドアの形が微妙に違っていたらどうだろう?
そして材質や色が微妙に違っていたらどうだろう?
それをそのまま受け入れるだろうか?
歯科治療においてはそういう事が当たり前にある。
自動車の修理と異なるところは、
多少、形態や色が異なっても、
多くの人はそれを受け入れているという現実である。
そもそも 自動車の修理に求めるものと、
歯の治療に求めるものは違うかもしれないが。
だとしても 歯の形態を人工物で補うのであれば、
復元率は高いほうが良い では、100%の復元率が必ず必要なのか?
答えはNOである。 厳密に言えば、
歯科医が回復するべきは、形態ではなく、
機能である。
正しく咀嚼するための機能、
美しく見せるための機能、
長期にわたり、
存続するための機能 これらが十分に満たされているのであれば、
100%復元する必要はない。
形態とは、機能を投影したものにすぎない。 ?
? 形態から機能を読み取り、
機能から形態を模索する。
この一連の思考の在り方が、
歯科医の手腕につながるのだ。
歯科医の治療技術とは、
歯科医が何を考えているのか? で決まる。
どんなに手先が器用でも、
考えていることがお粗末なら、意味がない。
例えば、 ある程度咬耗が進んだ歯牙の形態については、
他の歯牙形態や、
噛み合わせ、 歯ぎしりなどを熟慮して 治療にとりかかる必要がある。
咬耗は、 歯にかかる力の大きさと方向を指し示す重要な証拠でもある。
歯科医は歯を削る前に、 その歯をよく観察しなければならない。
その歯が、口の中でどのように機能しているのかを、 理解しなければならないのだ。
何も考えずに虫歯の部分を削り、
なんとなくそれっぽい形を与えても、
機能回復どころか、
他の歯との調和を乱してしまう恐れがある。
虫歯治療を多数の歯に行えば行うほど、
全体の噛み合わせが少しずつ狂っていくことは、 経験論からいえば決して少なくない。
噛みわせが悪い人には2つのパターンがある、
(1) 歯科治療に関係なく噛み合わせが悪い人
(2) 歯科治療によって噛み合わせが悪くなっている人
経験論で言えば、圧倒的に後者(2)が多い。
口の中に入れた金属などの人工材料が、
歯の天然部分のかみ合わせを 邪魔していることがほとんどである。
以下の写真を見てほしい。 過去に、金属を被せた歯の末路である。 ?
赤い印がついているところが、 現在咬合している部分である。 別の角度からもう一枚 天然の歯の部分はすり減ってしまい、
金属が取り残されている。
被せた最初の頃は天然部分で噛んでいたのだが、
歯の咬耗に対し、 金属は自らすり減ることがほとんどできないので、
いつのまにか、 金属の部分だけで噛んでいる状態になってしまっている。
わかりやすく理解してもらうために、
あえて極端な例を ここでは挙げているのだが、
実際にはほとんどの患者さんの口の中は こういう状態になっている。
歯科界はこの問題を放置しながら、
歯周病やインプラントについて論じているので、 滑稽極まりない。
時間が経つにつれ、当たる部分は変わるのだ。
こうなると、 もはや金属が咬合を邪魔している状態になっている。
最初に金属を被せた時、
このような状態ではなかったはずである。
歯よりもすり減り難い材料を用いれば、
このような状態になることは 容易に想像できる。
セラミックでも同じことだ。
これがプラスチックであれば逆のことが起きる。
歯と同じ性質を持つ材料は、 残念ながら存在しない。
一本の歯に部分的に被せれば、
その歯の中で、バランスが変わり、
一本の歯に全部被せれば、
他の歯とのバランスが変わる こんな簡単なことを、
なぜか歯科大では教えないのだ。
虫歯を治療し、 噛み合わせが破壊される。
大げさに聞こえるかも知れないが、
噛み合わせで悩む人にとってみれば 大げさでもなんでもないのだ。
このような状態になっても、
患者さんが自分で気づくのは難しい。
長い時間をかけて変化していくものに、
人はなかなか気づかないものだ。
また、このような状態になったからといって、
必ず症状や問題が出るわけではない。
噛み合わせの問題は、歯だけでなく、
関連組織のポテンシャルも関与してくるからだ。
だがしかし、
もし、噛み合わせをちゃんとしたいのであれば、
このような問題を解決した上で取り組むべきであろう。
過去にいれた人工材料をそのままにして、
新たに何かを被せることは、
間違った基準で治療を行う事につながる可能性が大きい。
人工材料が噛み合わせを阻害していないかどうかを 精査する必要があるのだ。
咬合について論ずるなら、 人工物による干渉を外してから、
論ずるべきだ。 これは歯科治療においてとても大切な概念である。
16年間の臨床を通じて言わせてもらうが、
どこに行っても治らないといって来院してくる患者さんの問題は、
そのほとんどが歯科治療そのものに起因しているものが 圧倒的に多い。
友人に歯科相談を受ける内容のほとんどが、
被せものや詰め物に起因しているものばかりである。
100分の1ミリ単位で調整してもらえばいいと アドバイスしても、
歯科医がそのレベルで仕事をしてくれるか? というところで問題が行き詰ってしまう。
遠方の知人や友人には、 とあるスタディーグループに加盟している歯科医院に行くように 勧めるしかないのが現実だ。
(まあ、これも当たり外れがあるだろう。)
過去に歯科治療を受け、 口の中に人工材料が用いられているのであれば、
定期的に健診を受け、 それぞれの人工物を調整(最適化)しなければならない。
この概念で仕事をする歯科医は、 全国的にまだまだ少ないであろうが、
人工材料を用いる以上、 避けて通れない問題だと言っておこう。
歯科医が被せるものは、 あくまでも歯科医が勝手に決めた基準に基づいている。
その基準が、根拠の乏しいもの、
無責任なものであれば、 一時的には問題を解決したとしても、
数年後には、 大きな問題につながる可能性があるという事だ。
歯に何かを被せたり、 何かを詰めたりするときは、
必ず、統一された基準のもとに行う事を強く勧めたい。
その歯科治療が、
どのような基準で行われているのか? 多くの患者は、
それを知らずに受診している現実がある。
多くの患者が気にする事項、
痛みの有無、治療期間の長短、
治療費等が、 実は、質の高い歯科治療とはさほど関係ないことを、
多くの患者に知って頂きたい。
その歯科医師の治療方針がどのようなものか?
それが自らの望むものと合致しているか?
最初から歯科医に全てを任せることは、 決して悪いことではないが、
少なくとも、自ら受ける治療が、
どのような基準で行われているのか位は、
患者自らが知るべきだと思う。 正しい医療の情報を得てから治療を選択する。
こういう姿勢がこれからの時代は必要なのだ。
もう21世紀なのだから。
Heaven helps those who help themselves