良い歯科医師の具体例について
歯科医師にもいろいろなスタイルがあって、すべての患者さんに対して通じる歯科医師は
残念ながらこの世には存在しない。誰かにとって良い歯科医師が、他の誰かにとって悪い歯科医師になることはよくあることで、歯科医師の考え方と患者さんの考え方が微妙にずれていることはさらによくあることだ。
歯の問題でいろいろと大変な目にあった人や、歯の健康について高い意識を持っている人であれば、合理的な歯科治療と、継続的な予防管理はすんなり受け入れてもらえる確率が高いのだが、歯の問題を抱えているにも関わらず、自覚がない、さほど困っていないという人には、馬の耳に念仏となる。
医学的に合理的かどうかではなく、患者さんの感覚や感情に沿って行う治療は
ある意味とても簡単で親切だが、応急的な治療になりやすいので、数カ月、数年後には
問題が山積みになって帰ってくる。とことん悪くなって、ようやくきちんと治療しようと思う人と、口の中が崩壊しても全く気にならないという人に少しずつ分かれていく。
日々常々言っていることだが、口の中がどんどん崩壊しようとも、本人が全く気にせず
理解、納得しているのなら、それはその患者さんの意思を尊重すべきであって、
医学的な正しさなんてただのおせっかいになる。つまり自由にすれば良い。
これに対して最も不幸なことは、患者さん本人がきちんと改善したいにもかかわらず、
どうしていいのかわからないまま、形骸的な歯科治療を受け続けることで、
治るどころか少しずつ崩壊していくことである。
歯の問題で心底困っている人たちは大抵このパターンである。
なんにせよ、しっかり治療したいと決意した患者さんが、しっかり治療してくれる歯科医師に出会えれば良いのだが、歯科医院によっては応急的な歯科治療を主軸にしている所も少なくない故、歯科医師と患者さんのマッチングがずれることで、患者さんの要望は叶わないということになる。さらに言えば、技術的な問題だけでなく、性格の不一致や、
言葉の理解力の違い等によって、双方のやり取りが上手くいかないこともよくあることだ。
歯科医師の数だけ様々な診療スタイルがある。
患者さんの数だけ希望や要望がある。
そのミスマッチをいかに防ぐのか?
ということが、歯科医療の最重要課題なのだが、未だにこの問題は双方のマンパワーに
委ねられている。
前回、良い歯科医師に出会いたいのであれば、あなたが良い患者さんになりなさい。
良い(賢い)患者さんになることで、自分にとって良い歯科医師を探すことが可能になるということを伝えた。それを踏まえたうえで、歯科医師のいくつかのパターンを上げておくので参考にしていただければ幸いだ。なお、これはあくまでも僕の独断と偏見によるものであり、あくまでも個人的な意見だということを認識していただきたい。
1 説明が上手だが、治療技術は普通
おそらく、一般的にはこのタイプが一番多いのではないかと思われる。
保険診療を主軸にして、時々自由診療を行うので、平均的な歯科医師のスタイルである。
軽度~中等度の疾患に対しては対応できるが、重度の疾患、総合的かつ精密な治療となると、そもそも治療時間を獲得できないのと、慣れていないので対応に限りがある。
2 説明が上手で、治療技術も上手の天才肌
何事にも、優秀な人は全体の2割。説明も上手く、技術も上手いとなるとなかなか探すのが難しいが、優秀な歯科医師は説明を嫌がらないということと、説明にもきちんと画像や動画を用いる傾向があり、治療後も画像で確認できるので治療前と治療後の画像を見たいとリクエストするのがお勧め。ただし、治療の守備範囲の広さは歯科医師によって異なるので注意が必要。
3 性格に癖があるが治療技術のレベルが高い
いわゆる昔ながらの職人気質。全てお任せなら良いが、コミュニケーションはとにかく苦手。好き嫌いがはっきり分かれるところ。治療技術のレベルは高いが、
患者さんが満足するかどうかは相性次第。
4 知識は豊富だが、治療内容は普通
勉強ばかりで実践が少ない。治療経験も少ないので若手の歯科医師に多いタイプ。
ただ、理論的に話すことには長けているので説明には説得力がある。
さほど難しい治療でなければ治療そのものは丁寧な傾向にある。
5 広い知識はないが、得意分野、専門分野においては強い
専門医に多い傾向であり。大学病院に長く勤めている歯科医師もこの傾向が強い。
専門医の連携による包括治療は確かに理想的であるが、治療に対する最終的な責任の所在が不確定になりやすい。
歯科治療は総合的な評価が重要ゆえ、専門医との関わり方をきちんと明確にすることをお勧めする。
「専門医」という言葉だけにとらわれないようにしましょう。
6 広い知識、治療も全般的にしっかりできる
オールマイティ―タイプで、要領がいい。人柄も良く、だれからも好かれる万能型。
自分のできることとできない事をはっきり言えるタイプ。
先に述べた2の天才型というよりは、優しい勉強熱心なタイプ。
行動や言動も控えめで、周りからの信頼も厚い。
ただし、突き詰めるタイプではないので、あまり冒険はしない。
難しい症例は専門医との連携を取ることで対応する傾向がある。合理的、効率重視である。
7 説明が下手で、治療も下手
残念ながら実在するので、もしかしたらと思ったら、できるだけ早く転院するように。
8 説明が下手だが治療は上手
あまりコミュニケーションを取らない歯科医師は要注意だが、
このタイプは得意分野においてはなかなかの技量を発揮する傾向にある。
ただしその対応範囲は限られてくるのでワンパターンな治療になりやすい。
会話の展開があまり広がらないので、
それが良い治療であっても患者側はなかなか実感しにくい傾向にある。
9 知識はあるが経験が浅い。
まさに若手の歯科医師の典型的なパターン。
歯科医師なら誰もが通る道である。経験の少なさを何で補うのか?が大きな分かれ道となる。
勤務している院長の考え方に依存するため、
若い歯科医師の上司やボスの方針について理解しておくと良いだろう。
10 経験はあるが知識が浅い
臨床経験を長く続けているが、普段全然勉強しないタイプ。
治療方法もワンパターンで自分の感覚だけで診療するタイプ。
歯科医師なのに歯科医療にさほど興味がない。
ただし、長く続けているだけあって、相手を自分の土俵に乗せるのが上手い。要領がよく、無難な治療を中心に行う。
実際にはさらに細かく、多種多様に存在する。こういうパターンがあるということを
例として認識していただければ幸いであり、つまりは歯科医師にも様々なスタイルがあるということを知っていただければ良い。
さて、こうなるとどうやって探せばよいのか?ということになる。
これはなかなか難しいのだがそのコツをいくつか伝えましょう。
1 自分が何を求めているか?についてまず考える。
買い物に行く前に、何が欲しいのか決めることは自然なことだ。歯科医院に行く前に、
自分が歯科治療に対して求めていることをできる範囲で構わないから一度しっかり考えてみて欲しい。
2 歯科医院に行っていきなり治療するのではなく、話し合う時間を設ける。
歯科治療は、その後のあなたの歯の健康の在り方を大きく左右する。
歯に何度も治療を重ねればその歯の生存率は下がることになる。
建物と同じで、工事の前に設計があり、
設計の前に、目的とコンセプトを決める必要がある。 歯科医師とよく話し合い、
自分がどういうコンセプトで治療を行いたいのか?を歯科医師と十分に協議してから治療を開始して欲しい。
協議を嫌がる歯科医師なら、それはあなたの意見を聞かずに治療を行うことを意味する。
3 自分と同じような感覚、価値観を持つ知人、友人の通っている歯科医院を参考にする。
生活レベルや価値観があまりにも異なると、歯科治療においても選択基準が大きく変わってくる。
知り合いからの口コミや意見は参考にできるので、自分に似ているような
知人の意見をもとに探してみるのも良いだろう。
ただし、あくまでも自分の考えや意見をしっかり持つことが重要だ。
4 メール相談、電話相談等を事前に行う。
歯科医院によっては電話相談、メール相談やオンライン相談を行っているので、事前にいろいろと相談することで、
治療に対するイメージがつき、歯科治療の選択がしやすくなる。
歯科医院の対応次第で、通うべきかどうかを判断しやすくなる。
簡単な質問から始めて、相性が良ければさらにいろいろと相談するのが良いだろう。
回答に対していまいちよくわからないという場合は、やめた方が良いだろう。
5 WEBでいろいろと調べる。
歯科治療についてWEB上でいろいろと情報があるので事前に調べてから
訪院するとよいだろう。ただし誤った情報もあるので、鵜呑みにするのではなく、
歯科医師の話す内容と照らし合わせながら、情報をまとめていくことが大切である。
WEBで複数の歯科医師に相談するのも一つの手段である。
歯科医師の能力をそれぞれに分けて考えることで、
その歯科医師を客観的に評価できる。
コミュニケーション能力
知識量
経験値
技術力
倫理観
道徳観
専門性
責任感
まあ、どんな職業にも当てはまることなんですけどね(笑)
つまりは全体のバランスが取れていないと、その診断力や治療方針は偏ったものに
なりやすい。
残念ながら、これを患者さんが見抜くのは難しい。
ただ、少なくともコミュニケーション能力と知識量については会話と質問である程度はわかるだろうし、
技術と経験は治療を受けることである程度想像がつく。
ゆえに最初は簡単な治療から始めることで、歯科医師の技量を測るのも良いだろう。
最終的に「信頼」できるか?
凝視しろという意味ではなく、
その歯科医師が自分の希望をきちんと叶えてくれそうかどうか?をまず考えてくださいということ。
何も考えずにただ受診してしまうと、いつの間にか全然違う方向に流されているなんてことにならないように、
できる範囲で構わないので、あなた自身がまず考えることが大切だということです。
最後に、一番簡単な見分け方として、その歯科医師が一日にどのくらい診察しているか?
ということを目安にきめるのも良いでしょう。
一日に多くの患者さんに対応しなければならない場合、一人一人に懇切丁寧な
診療はできない。効率重視でとにかく痛みを取り除くことや、とりあえず患者さんが
許容できるレベルにまで引き上げることが診療の中心になる。
そこで求められる歯科医師像は、とにかく治療が早く、そしてできるだけリスクを負わない診療スタイルであろう。
患者一人当たりの診療時間は短く、難易度の高い治療は避ける傾向にあるため、患者さんにとってはわかりやすい治療内容だ。
欠点としては、一人の患者さんの抱えている問題を根本から見直すわけではないので、
複雑で難解な症例に対しては対応が難しいところだ。
これに対して一日に限られた患者さんだけを診療するスタイルは、患者さんのあらゆる希望に対して細かく対応できるので、疾患に対して様々な選択肢を提案しやすくなる。
一人の患者に対して「時間」をしっかり確保できるので、患者さんとゆっくり対話しながら、
最善の治療を提供することが可能となる。
ただし、誰もがそういう治療スタイルを望んでいるわけではない。根本的な解決よりも
今気になる問題だけを対処したい患者さんは少なくない。
根本的な治療には時間や費用、通院期間のコストがかかるため、歯の健康について
あまり重視していない人にはその価値が見いだせない診療スタイルである。
どちらも社会には必要で、患者さんにもいろいろなニーズがあるゆえ、
最初にも述べた通り、マッチングが重要なのである。
歯科医療の本質は昔から変わっていない。
医療技術がどんなに進歩しても、原理、原則は変わらないのである。
歯は治すものではなく、守るもの。
どうやって守るのか?
それがあなたの未来を左右するのである。