詰める材料、被せる材料それぞれの特徴と傾向

虫歯になっている部分を削った後は、歯の形を元の形にするために何かを被せなければなりません。厳密に言えば元の形には決して戻りませんが、機能的に不自由のない形で完結させる必要があります。

被せる材料は、一般的にレジンといわれるプラスチックや、銀合金が一般的です。

被せる場所や範囲によって利点欠点があり、歯科医師の治療に対する考え方や、患者さん自身の事情よって良し悪しが決まります。

一度でも治療した歯は、治療していない歯に比べて新たな問題を引き起こすリスクが高くなります。そのため、治療後の管理、確認や調整が必要不可欠のなるのです。ところが、日本の歯科事情において、そういった概念は一般的ではありません。

痛くなったり、違和感を感じたら歯科医院に行き、治療が終われば、痛くなるまで歯科医院にはいかないのがほとんどではないでしょうか。

歯という組織を、一生涯にわたって健全に使い続けるためには、多くの場合、生活習慣、食習慣、ブラッシングの内容と回数、歯並び、歯科治療の質、定期検診の実施などが必要になります。

日本人は、歯を大切にする文化がないので、生涯にわたって、歯をきちんと守ろうという発想があまりありません。痛くなってから歯科医院に行き、痛くなくなればいつも通りの生活に戻ることで、長い周期でみれば治療する箇所がどんどん増えていき、最終的には入れ歯やインプラントに移行する傾向が強くなります。

歯科治療の多くは、過去の治療のやり直しばかりであり、治療の質、用いる材料、治療後の管理によって、将来の明暗が分かれてしまいます。短期的な視野では、患者さんが許す限りはなんでもありですが、長期的な視野においては、物理や数学のように原因が結果を裏切ることはありません。ダメなものは、必ずダメになるということです。

歯科治療において気を付けなければならないポイントは多々ありますが、その中でも特に、詰め物や被せ物は重要です。材質の良し悪しだけではなく、作製する際の手技も問われるので、材質だけで良し悪しは決定されません。選んだ材料それぞれに管理方法、注意点が異なります。何を選んでもかまいませんが、材料それぞれの特徴があるため、特徴をきちんと理解したうえで選択するのが賢明です

歯科レジン(プラスチック)

用途が広い。様々な種類と色があり、各メーカーによって硬さや耐久性が異なる。小さく削って小さく詰めることができるので、歯を削る量が最小限で済むことが多い。だがしかし広範囲に用いると強度不足となりやすい。長期的にみると耐久性は劣るので、劣化に注意が必要。奥歯のかみ合わせを長期的に支えることはできない。

咬合面に広く用いるとすり減ってしまい、歯の上下的位置関係を変化させてしまう傾向がある。保険診療では頻繁に用いられる材料であるが、自由診療のための材質の優れたレジンも存在する。耐久性、硬さは優れるが、歯科医師のテクニックによって結果が左右される場合も少なくない。

銀合金

12%金銀パラジウムが一般的であり、保険診療では最も多く用いられる金属である。金属ゆえにレジンよりも耐久性が高く、かみ合わせをしっかり支えることができる。歯にはめ込んで用いるために、虫歯ではない部分も削る必要がある。

金属アレルギーの原因になることがある。保険診療における銀歯は、その精度があまりよくない。これは金属云々ではなく金属価格の高騰、技工士の報酬の低さ、保険診療報酬の低さゆえに、製品そのもが安かろう悪かろうという傾向がある。パラジウムは金属としてはとても硬く、歯の自然咬耗に対して抗う傾向にあり、2次的な問題を引き起こす傾向がある。レジンに比べて耐久性は優れるが、品質についてはばらつきがあり、品質が悪いと、再び虫歯になる確率が高くなる。一昔前は歯科治療において最も使われた材料であった。

金合金

虫歯治療においては18k、20kが用いられる。金の特性を十分に生かすためには75%以上の金含有率が必要。硬さは銀合金に比べて柔らかいので、歯の自然咬耗に対してさほど抗わないので適度に咬耗する。展延性があり、歯の境界部において金属を引き延ばすことで、封鎖性を高めることができる。

銀合金に比べて歯に対する適合性が高く、詰め物や被せ物においては機能として非常に優れている。術後管理が他の材料に比べて簡便で、最もリスクが少ない材料である。

だが、金色そのものが、多くのひとに受け入れがたく、審美的は銀より嫌われる傾向がある。また、歯科医師や技工士のテクニックによって、その品質が左右されるところは銀合金と同じである。

セラミック

各メーカーが様々な種類を発売していて、硬さや色に様々なタイプがある。歯に比べて非常に硬いので、かみ合わせの管理が必要不可欠である。レジン、合金材料と比べて、取扱いが最も難しい。歯肉との相性が良く、審美性に優れている。

トラブルの多くは破折であり、自然咬耗しにくいために、かみ合わせの変化に順応し難い。奥歯に用いる時は100分の1ミリレベルでの咬合調整が必要となる。材料そのものに硬さの遊びが少ないために、歯根膜レベルでの細やかな精度が求められる。

個人差があるが、自然咬耗にあわせて定期的にセラミックを削ることが望ましい。そのため、術後の定期検診は必要。生体親和性、審美性においては非常に優れる反面、硬すぎる物性がもたらすマイナス面もある。

クラウンタイプならまだ良いが、インレーやアンレータイプとなると、精度のばらつきが多くなる。歯に対する適合性は、金合金に劣る傾向にある。歯科医師や技工士のテクニックに左右されやすい。

簡単に言えば。価格重視なら、レジンや銀合金。機能性や術後の安定を求めるなら、金合金。審美性や生体親和性を求めるならセラミック。というところです。

虫歯を取り除いた後に何で修復するか?

各患者さんごとに求めるものは違うので、答えは様々ですが、各材料の特徴を理解したうえで、正しく選択することをお勧めします。

もちろん最も優れた材料は天然の歯そのものです。予防に勝るものはないということですね。