TCH行進曲

 

 

40年も経ったというのに、

 

歯科医師は、未だに噛み合わせについて、

見解を統一できずにいる。 これからも統一することはないだろう。

 

以前にも述べたが、 悪い噛み合わせには2種類あり、

そのほとんどが、歯科治療に起因するものばかりだ。

 

優秀な歯科医に出会える確率は低い。

本当に旨い寿司屋が少ないのと同じで、

良い仕事とは、誰でもできるものではない。

 

これは一つの現実である。

 

最近、咬合論に一石を投じる考え方が 歯科界を賑わせようとしている。

TCH http://tmd-kino.com/tch.html

この考え方はとても面白い。

 

歯の治療ばかりしていると、 肝心なことを忘れてしまう。

歯とは、それだけで機能しているわけではなく、

歯の周りの組織や、顎関節と咀嚼筋、

しいては、指令を出している脳によって機能している。

 

歯を治療する際、 これを全て意識して、

治療することは一般的にない。

そんなところまで、考慮してしまうと、

もはや一本の歯のために 多くのの時間とコストがかかりすぎてしまう。

 

ましてや多くの患者さんは、 そこまで求めていない現実もある。

 

だがその一方で、 いつまでも悪い噛み合わせで悩む患者さんがいる。

 

助かる人もいれば、助からない人もいる。

優秀な歯科医師であれば、

そういった問題を高い確率で解決できるのだが、

多くの歯科医師は、 現実としてそこまでの治療を施せるわけでもなく、

患者としても、 その優秀な歯科医師を見つけることもなかなかできない。

 

完璧な治療を求めるよりも、

噛み合わせの弊害をできるだけ少なくするために、

「歯と歯を接触させない」 という方法が、

最も簡単で、誰にでもできる解決策なのだ。

 

この方法なら、特に優秀な歯科医師じゃなくても、

また、歯科医院への通院が難しい患者でも、

かみ合わせに起因するあらゆる問題から身を遠ざけることになる。

 

どんなに悪い噛み合わせでも、噛まなければいいのだから。

 

そもそも、人間は何もしていない時、 唇は閉じ、

歯と歯は離れている状態であることが 自然なのだ。

 

これは、入れ歯を製作する時の基本概念でもある。

 

ところが、歯と歯を接触させ続けてしまう事で、

 

咬筋が緊張し続けてしまい(?参照)、

就寝時の歯ぎしりや、

くいしばりを増大させてしまう可能性が高くなると 推測されている。

 

人によっては、日中に強い食いしばりをしてしまう人もいる。

 

何を持って強いか弱いかは、 はっきりと基準はないので、

いずれにせよ、 歯と歯を持続的に接触させることは、

あまりよろしいことではないのだと 認識して頂ければ良いと思う。

 

歯と歯が弱い力で接触してしまうのは、アドレナリンの過剰分泌による交感神経優位によるものだという考え方があります。機能性低血糖症がその原因の一つだと言われていますが、ここまで踏み込んでしまうと話が少し難しくなるので、これについては別の機会に述べさせていただきます。 ここではわかりやすくするために、あくまでも歯の持続的な接触を中心に述べさせて頂きます。

 

 

東京医科歯科大学では、

顎関節症の患者にマウスピースを製作することを止め、 (希望者には製作するとのこと)

歯と歯を離すように指示する方針に転換した。

 

歯ぎしりやくいしばりによる歯への悪影響は計り知れない。

また、原因を突き止めようとしても、原因が多岐にわたる為、

対処法がなかなか絞れない場合も少なくない。

噛み合わせの問題を複雑怪奇に考えるより、

そもそも噛まなければ良い

という逆転の発想は、

咬合や顎関節を取り巻く様々な問題に対して、

最初にとるべき最良の手段と言えよう。

 

そのうえで、精密な咬合の再構築や、

顎位を適正な位置に導く治療については、

必要に応じて行えば良いのである。

一日のうち、 歯と歯が接触している時間は約20分弱と言われている。

これが達成できるのであれば、 噛み合わせに少々問題があったとしても、

 

理論上、悪い影響はほとんど起こらないことが予測される。

しかし現実には、 噛み合わせで悩む人や、

噛み合わせが原因で様々な疾患を抱えている 患者は少なくないのだ。

 

これまでは、 正しいかみ合わせを追求するばかりの歯科医であったが、

歯を普段から離しておくことを指導することも、

念頭に入れなければならなくなった。

 

TCHの是正は、歯科治療のゴールドスタンダードになるだろう。

(これを受け入れたくない歯科医師もいるだろうが)

 

ただし症例によっては、 これまでの精密な咬合治療は必要である。

全ての患者が、

歯を離しておくことを確実に達成できるわけではないからだ。

また、就寝時の食いしばりや歯ぎしりを完全に失くせる保証もない。

理論と現実は、時々乖離するものだ。

医療において、偏った考え方は禁物だ。

そういう意味で、

TCHの概念はこれまでの凝り固まった考え方を一掃してくれるものだと思う。

 

バランスよく考えることが、センスの要である。

 

TCHの改善によって、多くの患者さんが救われるだろう この概念を、

 

いかに浸透させていくかが、

僕らの重要な使命の一つであると、

改めて決意させられるのだ。

 

 

皆さん、 歯を離しましょうね。